2020/05/21

愛の骸 夢の残り香 ③




"赤く錆びた月の夜に
 小さな船を浮かべましょう
 うすい透明な風は
 二人を遠く遠くに流しました

 どこまでもまっすぐに進んで
 同じところをぐるぐる廻って

 ここにいるよ あなたが迷わぬように
 ここにいるよ あなたが探さぬよう

星のない暗闇で 彷徨う二人が歌う歌
波よもし聞こえるなら 少しいま声を潜めて"

 by 上田現「ワダツミの木」



彼女はパッと見 人目を惹く 
とても華やかな美人 
幼少期から目立って人の輪の中心に立つタイプ
つまりはスクールカーストの上位にいる人間
そんなんだからイジメとは無縁で
男子生徒からも崇拝され大切にされた

いわゆるモテ女だったのだけれども
彼女が心奪われたのはたった一人の男性
幼馴染でもあった彼とは相思相愛の仲
誰もがそのまま二人が一緒になると疑わなかったろう

けれど彼女には叶えたい夢があった
自分が進みたいと思う道 
魂が求める人生のステージ
夢を叶えるためには上京を選ぶしかない

彼は彼でどうしても地元を離れられない
彼にも実現したい夢があり 進みたい道があった
それは地元でしか叶えられないこと

二人は別れを選び 
それぞれ別のパートナーを得ることになる

しかし絆は切れることなく
互いに対するよき理解者 親友として 
男女の境界線を保ったままに
付き合いは続いていくこととなった

プラトニックだからこそ
かけがえのない永遠のパートナーとして
唯一の人であると 心の大半を占められつつ
それを支えにして生きるかのように

そう
彼女にとっての"理想"
魂のかたわれたる人は別れを選んだその日から
紛れもなく このになった


さて月日は流れ
彼女は長年連れ添ったパートナーに裏切られ
離婚という現実を突きつけられていた

失意の彼女は
仕事で訪れた南の島でとある出会いをする

彼が彼女に言った言葉が
デジャビュを伴って
魔法のように遠い日の記憶を呼び覚ます

この彼は 幼馴染の彼に容貌がとても似ていた

彼女は恋に落ちた


初めて訪れたのに どこか懐かしいその島
あまりメジャーではない小さなリゾート地

自分は昔 ここに住んでいたような気がする
何とも言えない感覚が彼女を頻繁に襲う


身を清算して再び島へ渡ったときから
彼女のこれまでにはない苦しみが始まった

新しい恋人は彼女に対して
決して誠実ではなかったのだ

様々な感情とそして目には見えない怨嗟が
未だ離婚の痛手から完全に立ち直れてはいず
克服もできていない彼女に
苦悩とトラブルをもたらす

いったいこれはどうしてなんだろう…?


彼女が友人である私のもとを訪れたとき
二人の女性の生霊が彼女を苦しめていた

一人は離婚の原因となった女性(プリンちゃん)
もう一人は某島に住む彼に横恋慕する女性

とはいうものの
それらを処置することでトラブルの理由が
すべて解決するような簡単なものではなく
状況はちょっと複雑だった

そこには遠距離の彼と
生霊を飛ばしている女性も関わっている
過去の物語が関係していたから




数百年もの昔
彼女は琉球王国に仕えるノロであった

独特の文化と悲しい歴史を持つ島
その時代はまだ美しく平和と隆盛を誇って
穏やかな時間が流れていた

彼女はノロという特殊な職にあったが
同時に王のモノでもあった

だが若く美しかった彼女は
その存在を尊敬し敬愛することは出来ても
父親としてしか見れない相手に
恋を感じることは出来ない

そして何度も顔を合わし目を交わす
首里城にて門番(警備兵?)のような職に就いていた
年の近い若者と恋に落ちた

二人の逢瀬は月明かりを頼りに
城からは遠く離れた浜辺の小舟の中
人目を忍んでひっそりと
わずかな時間を楽しんだ

だが彼を思うある人物が
それを嫉妬して 
浜辺に結んである船の紐を
昼間のうちに切断してしまった

彼を待ってうとうとしていた
彼女はいつの間にか流されて
気が付いた時には
潮の流れにただ任せるにしかなかった

祭祀を行う身だからこそ
神や先祖の守護があったのだろうか
潮の流れがたまたま幸いしたのか

何とか転覆もせず 船が辿り着いたのは
本土から離れた小さな島だった

そう
今生で彼女が仕事で訪れた島だ

海から小舟に乗って漂流してきた彼女を
島民は快く受け入れ 家と食を与えた
もともとノロであったので
場所は違えどもそれを続けるだけだった
そして彼女は助けてくれた人物と家族を持った

この若い恋人たちは二度と会うことはなかった

しかし本土から来たものたちから
その後の王宮の様子を知ることは出来たろう
所帯を持った身では戻ることは選択肢にはなく


繋いでいた紐を切ったのは彼の同僚だった
男性同士ではあったが
彼は彼をやはり恋い慕っていたのだ

その彼の生まれ変わりが
彼の近所に住む 昔なじみの女性だった
彼女に生霊を飛ばしてきたその人

彼は彼女が自分と恋仲だったときに
潮の流れで流されて生涯を終えた島に
島民として生まれてきていたのだ
しかも当時の彼女の子孫として



さて ここまで書くと
輪廻転生をして数百年後に出会った二人

というロマンティックな構図になる

だが実のところまた少しややこしい

彼女はこの成就しなかった恋
結ばれなかった恋人をあまりにも理想化していて
自分の中で"運命の相手" "魂のかたわれ"という
"虚像"を創り出していたので

本当に…

結ばれなかった恋というのは一種のになる


たぶん
過去生の彼…にとってノロだった彼女との恋は
単なるラブアフェア 
いわゆる戯れの恋だったのだろう

禁断の恋のスリルは時に人を熱情を与え
盲目的に燃え上がらせる

この時 このような不幸な 
悲劇的な別れ方をしなかったとしても
二人の仲は永遠には続かなかったろう

そして失望を味わったかも知れない
そうなっていたならば思い切れもしたのだろうが


だがこの時に
某島でノロとしての職務に準じる
ヨソモノとして孤高の日々を過ごしたせいで
"忘れ得ぬ人"を思慕する時間によって
この恋人のイメージが念入りに創られたのだ

今生の幼馴染に似ていたから
彼を好きになったのではない

幼馴染となる男性と出会ったのは
この彼を元としたプロトタイプのエレメンタルが
彼女によって創られて彼女の世界にいたから

けれども
エレメンタルが引き寄せた幼馴染の彼は
ホンモノより中身がイイ男であった
人間として数倍も優れものだ

(見た目はうーんとね…
「えっ?なんで?」って思った
彼女は面食いではなかったようだ
美人にしてもイケメンにしても
自分に自信のある人というのは
相手の見た目を重視しない人が多いである)


完全に一致する"あの人"ではないから
これ以上はないくらい
相性の良い相手であったのに
夢と引き換えられずに手放せたのか

過去の恋人で"忘れ得ぬ人"であるから
つまらない相手であるのに執着して苦しむのか

世間のタブーを犯すことなく 心の契りを結び
精神的にも深く繋がり合える人がいるのならば
男とか女とか通り越したところで
何もかも本音を打ち明け合って
空間的に共に生きることはせねども
互いに勇気や希望を与え合える相手がいるのであれば

今生で出会えたというのならば
もうそれだけが奇跡で
運命の巡り合わせだの再会などどうでもいいではないか


果てまた 恋というのは厄介なもので
一種の熱病であり 心の病でもあると思う




"LOVE IS DEAD 消してよ
 死んだ恋の呪文を この体から
 じゃないとまともに生きられない
 BABY, I WANT YOU
 流れる 季節に誰ひとり 待ってはくれない
 おいてきぼりの亡霊は叫ぶ"

 by B'z「LOVE IS DEAD」

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