2015/10/30

スピリチュアル・カルテNo,1「長い別れ」

 【スピリチュアル・カルテ~No,1】

これはクライアントさんというよりは、プライベートで親しくお付き合いをしている友人のお話です。彼女が良かったら私の話を使って下さいな・・・と、進んでそう言ってくれたので、文章に起こさせていただくことにしました。

その日の彼女は恋人からの別れ話に手痛いダメージを受けて、深い悲しみの淵にありました。もともと体の弱い彼女は、その心の衝撃から酷く体調を崩してしまってもいました。彼女を独りぼっちにするのに少し不安を感じた私は、「泊まりに来ない?」と前日からの宿泊に彼女を誘ったのです。

翌朝、休んでも体調の優れない彼女に、私は何か少しでも役に立つかも知れない・・・と、ヒーリングを施すことにしました。その当時の私は、レイキのアチューメントを受けたものの、他人にヒーリングをすることをほとんどしていませんでした。

寝ている彼女の頭にそっと手を触れた瞬間、ふいに彼女のガイドの一人が現れて私の耳元に囁くように話しかけてきたのです。

それは白髪の老人で、いかにも学者か哲学者といったタイプの人でした。

「これの痛みの原因となった出来事は過去に遡ることが出来る・・・」

その言葉と同時に私の頭の中に、次のような光景が飛び込んできました。それは一瞬の出来事にも感じましたし、長い時間のようにも思えました。
その時の感覚は、まるで絵巻物の詰まったカプセルかDVDのようなものを、頭の中のハードディスクに放り込まれたようなかのようでした。

そして、私は彼女…Sさんと彼との過去生の物語を知ることとなったのです。

















まず見えたのは、広い田園風景に囲まれた村。ヨーロッパの何処かの田舎という感じがしました。決して豊かではない村。けれど信仰厚き人々が濃密な関係を築きつつ、助け合って暮らしている村といった感じでもありました。

Sさん・・・は、その人生では男性でした。
幼い頃、両親を亡くし、孤児となったものの、その村の牧師夫妻に引き取られ、実の息子のように大切に育てられていました。その牧師夫婦は、もともと都市部に住んでいた教養ある夫婦のようでしたが、何らかの事情で田舎のその村に移り住んできたようです。

そして、その博識さと温厚で情愛深い人柄から、村の人に尊敬され、敬愛されていました。また、牧師夫婦が都市で暮らしていたときの知り合いが、時々その村に尋ねてくることもありました。

尋ねてくる人々は有識者ばかりで、牧師夫婦がただならぬ素性のものであることもうかがわせましたが、牧師夫婦はいたって謙虚で、自分たちの経歴については、村の人々に何も語ろうとはしなかったようです。

そんないきさつで、その夫婦の宝物であった彼(彼女ですがここ以降、彼と表記します)は、牧師夫婦の存在のお陰で孤児という引け目を感じることもなく、伸び伸びとその村の子として育っていたようでした。

彼には幼馴染の女の子がいました。彼とは年が近いようで、2人は幼い恋心を感じていたようです。

けれどある日、2人に「別れ」の日がやってきました。
彼が町の学校に行くことになったのです。

牧師夫婦は、子供の頃から勉強熱心で可能性にあふれた彼の才能を、このままこの村で埋もれさせたくないとずっと思っていました。
そのことは、牧師夫婦だけでなく、貧しい村の人の希望と期待でもありました。

彼が学を究めて地位ある人になること・・。
そうすることで、村は恩恵を受けることが出来るかも知れないのです。
欲の無い牧師夫婦にはたいした財産はありませんでしたが、村の人々がなけなしのお金を集めて、彼を街に送り出す資金を捻出してくれました。
また、街には牧師夫婦のかつての知り合いがいて、そこに下宿させてくれるあてもありました。

彼は、孤児であった自分を育ててくれた牧師夫妻や、大切にしてくれた村の人々の期待に応えたいと考えて、生まれ育った村を離れて、長い年月の孤独に耐えながら街で勉強することを決心したのです。

















彼と彼女の間には、約束らしい約束はありませんでした。
というのも、2人はまだ幼く、恋を愛と自覚するには、一緒にいることが2人にとってあまりにも自然で当たり前すぎたのです。

けれど、2人はそれぞれの心の中で、自分にとっての相手が互いであると信じて疑いませんでした。2人の仲は幼馴染としてごく自然なものであったので、鈍感な周囲の大人はその「恋心」に気づかなかったようです。
牧師夫妻もその気づかなかった大人たちの一員でありました。

彼が旅立つ日、街へと続く田園風景に囲まれた細長い道を、彼女がいつまでも手を振って見送る姿が見えました。彼もときどき振り返りながら彼女を見やっています。彼の姿が見えなくなっても、彼女はいつまでもその場所に立ち尽くしていました。

街での彼の暮らしや勉学は、必ずしも順調というわけではなかったようです。下宿先は牧師夫婦の教え子であり、とても親切にはしてくれましたが、学校における勉学の場にあってはギリギリの生活をしている貧しい彼は、学友の嘲笑やお金の無い不自由を強いられることがしばしばでした。
学校が長い休みに入るときも、お金の無い彼は村に帰る旅費を作ることが出来ず、倹約してただひたすらに学問に打ち込んでいました。

そんなワケで彼は幾度も壁や試練にぶつかることになり、無事に学問を修めるまで相当数の長い年月を必要としなければなりませんでした。
彼はいつか村に帰って、恩返しをしなければならないと考えていました。
なけなしのお金を自分に投資してくれた村の人々の生活をよくすること、長い間離れていた高齢の牧師夫妻に親孝行をすること、そして、幼馴染のあの子に恋を打ち明けて共に家庭を築くこと・・・

最初のうちは、彼は彼女に手紙をマメに書いていました。

けれど、辛い日々やプレッシャーに負けたり、金銭的な問題が頭をもたげてくると、手紙の回数は徐々に少なくなっていきました。

けれど、彼は信じていました。

自分が村に帰還する日には、あの娘は笑顔で迎えてくれると。
そして、牧師夫妻や村の人々の祝福を受けて、あの教会で、夫婦の契りを誓うのだと・・・


















彼が街で苦しみながら、日々勉強におわれているとき。
彼女もまた苦しんでいました。

彼の手紙を待ち、きた手紙は何度も読み返し、それを木で出来た箱の中に大切にしまいこみ、この村で彼と過ごした日々を思い返して暮らしていました。畑を耕しながら彼を想い、日が暮れるのを見ては2人で見た夕焼けを思い出し・・・そうして彼がいつか自分を迎えに来てくれるのを、あるいはこの村に戻ってきて、自分を妻に迎えてくれる日を夢見ていました。

けれど、そんな思いはだんだん不安へと摩り替わっていきました。

年月は過ぎて、自分は大人の女になろうとしているのに、思い出の中の愛しい人は年を取らぬままなのですから、また、村の同じ年頃の娘たちは、
相手を見つけて次々に縁付いていきます。
彼女にも近づいてきて、打診してくれる男性がいないわけではありませんでしたが、彼女はずっとそれを拒んでいました。
 
彼と彼女のことは、村の「公然」ではなかったので、彼女の親も彼女が何故、誰かと結婚しようとしないのか、不思議でしょうがなかったようです。

さらに年月が過ぎ、彼の手紙が減り、彼女の不安と心の疲れがピークに達した頃、彼女の親は無理やり彼女の結婚相手を決めてしまいました。

それは決して「良縁」と呼べるものではなかったようです。
相手は財産や土地こそ、そこそこに持っていましたが、太っていて粗こつで、少し無神経なところがある男でした。

そんな理由で嫁の来てがなかったというのが本当のところです。
彼女の親は彼女が既に適齢期を過ぎてしまっているということ、彼は性格が良いとは言えずクセのある男だけれど、土地持ちであるということがその欠点を覆い隠すように思ったのです。

彼女には既にこの話を拒む気力が残っていませんでした。
この村以外に生きていく場所を知らず、なおかつ貧しいこの村で、やがて年を取っていく両親の世話を自分が見なければならないということを考えたときに、村を出たきり一度も戻らない彼よりもこの話を選ぶしかありませんでした。

とは言うものの、彼女は乱暴な夫との暮らしがイヤでイヤでたまりませんでした。太っていて醜いその容姿も大嫌いでした。お酒を飲んで大量に食べちらかしたあげく、横になっている夫を見ては、何故、自分はこの男の妻なのだろう? こんな豚のような男の妻にならなければならなかったのだろう?と考えました。

あんな男の妻になって気の毒に・・・と、自分を見る村の女性たちの視線に彼女は屈辱をいつも感じました。そして、嫁入り道具の中に忍ばせた木箱をそっとあけては、中にある彼からの手紙を何度も何度も読み返して
自分の不幸を嘆きました。

その悲しみと怒りは、彼と自分とのことを知らず、彼を街に送り出した牧師夫婦にも向けられました。お金を出した村の人々にも向けられました。
こうした「田舎の村」を恨みました。親さえいなければ、自分もこんな村を捨てて彼についていけたものを・・・何もかも捨てて街に行くことが出来たものを・・・と。

















そんなとき、ふいに彼が村に戻ってきました。
久しぶりに戻ってきた彼はとても立派な身なりをしていました。

約束通り、彼は学問を修めて、地位と名誉と役職を得て、村に奉仕するために帰ってきたのです。そんな彼の姿を彼女は正面から見ることが出来ず、人々の間・・・木陰からそっと見ることしか出来ませんでした。

せっかく帰ってきた彼、やっと帰ってきた彼・・・長いことこの瞬間を待ちわびて日々過ごしていたというのに、すでに彼女は結婚して他の人の子供を身ごもっていたのですから。

十年かぶりで見る彼はとても凛々しく、しつらえの良い衣類は心地よい香りが漂ってくるかのようでした。自分の今の夫とは偉い違いです。
村の若い娘たちは彼をうっとりとした視線で見ています。

本当だったら、彼の横にいくことが出来たのに・・・
彼の妻になれるはずだったのに・・・
彼の妻となって、今うっとりと彼を見つめていた娘たちが私を羨ましがるはずだったのに。

でも、現実はその逆です。
「あんな男の妻で可哀相」それが彼女に向けられている視線です。彼もまた、彼女が結婚してしまったことを知りました。そしてとてつもないショックを受けました。自分を待っててもらえなかったこと。しかも、相手は自分がよくは思っていなかった人物で、うわさを聞くと彼女は幸福そうではないということ・・など。
 
やがて弱っていた牧師が亡くなり、彼は牧師夫人を連れて街に移り住みました。彼と彼女はその後会うことはなく、2人の胸に苦い後悔と悲しみだけが残りました。これがこの2人の物語でした。


















この人生でSさん・・は彼でした。

そして、幼馴染の彼女というのがSさんの今生の彼だったのです。
現生では2人の性別、そして立場は逆転しています。
私はこのこと・・・私が見た物語をSさんに伝えました。

彼女曰く、
「その牧師夫婦、私の祖父母だと思う。
その時の牧師さんが今のお祖母ちゃんに間違いないと思うの。
お祖父ちゃんが奥さんのほうだったと思う。そう思う」

また、
「彼の実家は九州だけれど、田舎をものすごく嫌っているの。
因習とか、故郷に縛られたくない、親の面倒を見るために家に縛りつけられるのはゴメンだって、よく言っていた。それから、デブが嫌いっていうのが口癖。私にも太るなってよく言っていた。一緒に歩くのに私の服装に物凄くうるさくて『人に羨ましがられる彼女でいて欲しい』って・・・!!」

ようするに、その時の彼女・・・の苦悩、経験が
今の彼の趣味や嗜好に影響しているということでしょうか?

デブで容姿のみっともない夫の妻に仕方なくなるしかなかった彼女・・・
そんな男の妻であることで嘲笑されたこと、貧しい田舎であったが故に彼に期待をかけて彼女から彼を引き離した農村という共同体、親を捨てられれば街の彼のもとに逃げることもできたのに、親を捨てることが出来なかった過去・・・

そうしたトラウマが現在の彼の、「デブは嫌い」「一緒に歩くのにみっともない彼女はイヤ」「人から羨ましがられる彼女でいて欲しい」「親の面倒を見るために田舎に縛られるのはゴメンだ」「田舎は嫌いだ」という反動になったようです。




では何故、彼と彼女は再び出会ったのに・・・彼(彼女)は結婚したかった彼女(彼)にお互いフリーの状態で会えたと言うのに、彼女を振り回し、一方的に別れを告げたのでしょうか・・・

応えは簡単でした。

愛しているけれど、同時に憎かったのです。

何故なら、大好きだったけれど、自分を苦しめて屈辱的で不幸な人生を味合わせた人でもあるからです。客観的かつ理性的な事実がどうであれ、彼女・・にとっての事実はそうでした。

彼は愛しい人でもあると同時に自分を不幸にした相手でもあったのです。
自分が過去において、長い年月待たされて、連絡もろくにもらえないで、
死ぬほど辛かったということをSさんの彼は彼(Sさん)に知ってもらいたかったのです。かつて自分が味わった想いを彼女にも身にしみて経験してもらいたかったのです。

そこには浮かばれていない彼女の想いがありました。

ですが、
同時に相手を待たせてしまうことに対する「恐れ」も抱いていました。自分がかつて抱いた苦しい想いを、同じような年月を、Sさんに味あわせたくないという気持ちもブレーキとして働いていたのです。だからこそ、自分が大学を卒業し、その後の研修期間を経て、医師として安定した地位と収入を得るまで、彼は「待ってくれ」と言うことが出来ず、別れを切り出したのです。

相手を待たせて苦しめたい、かつての自分が味わったのと同じ想いをしてもらいたいと思う半面で、その裏で同じ想いをさせたくないという矛盾を持ってしまったのですね・・・。

Sさんのほうには・・・かつての彼の想いとしては
「やっと会えたのだから、今度は2人で幸せになろうよ」と言うところだったのでしょう。

だから、自分を求めつつ、同時に拒絶する彼の心が判らない。
近づけば近づくほど傷つけられる・・・彼の理解できない行動パターンに振り回されつつ、どうしても思い切ることが出来ないでいるのです。

そこには彼(彼女)へのほんのわずかな罪悪感と、今度こそ幸せにしてあげたいという想いがあるのかも知れません。
男と女の間には深くて長い河がある、決して超えられない深い河が・・・
という言葉がありますが、本当に、男女の仲というのは一筋縄ではいかないものです。

感情というのは実に厄介で、「想い」があっても、素直にはなれないもので。

















さてさて・・・
なんだかんだで彼女は彼との関係を終わらせたほうが自分のためだと思うようになりました。これ以上、この問題と関わることは自分の人生の妨げになると・・・。
 
そして、彼女(かつての彼)は彼(かつての彼女)の別れの申し出を受け入れた後、関係性を断ち切りました。

そうしてどうなったかといいますと・・・・

縁は復活しています(笑)
 
とはいうものの、恋人同士に戻った、ということではありません。
お互いそれぞれの道を歩みながら、時々互いの様子を伺うようにメールのやり取りにて近況報告をしているといった程度の関係です。
それはとても淡々としたもので、遠くからそっと互いを見守る・・・というようなものです。

果たして彼が卒業し、無事に医師となったとき・・・
2人はどうなるのでしょうか?

それはこれからの愉しみでもあります。

けれど、これから先、2人の運命が同じ方向を向いているにせよ、あるいは別々の方向を向いているにせよ、そのどちらかいずれにしても・・・
もう2人はお互いを縛りあうことはないでしょう。

そしてSさんも、自らの過去や相手の想いに引きずられて生きていくことはないでしょう。
 
というか、そう信じたいです。

















Sさんと、彼のこの過去生は、Sさんを通して得た情報ではありますが、どちらかというと彼の側に立った情報であり、彼の無意識の想いをSさんに伝えるリーディングとなりました。

つまりはこのリーディングは、私がクライアント当人のことではなく、そのクライアントに対して報われなかった「想い」を抱いている存在の立場や感情を伝えるという、あまり例のないケースになりました。

私が思うに、当時、彼だったSさんも、当時の彼女の女心や苦しみをあまり理解できていなかったように思うのです。

今は女性ですが当時は男性だったわけですから、それは仕方ないといえるのかも。それにたぶん、彼は慣れない街での暮らし、勉強や自分のことで精一杯だったのでしょう。これは誰も責められることではありません。
彼女もまた苦しかったのです。

私も女だから判ります。これを読んでいる人も彼女の追い詰められた精神や置かれた立場が理解できるのではないでしょうか?
この経験をカルマにしてしまったことは別として。2人ともそれぞれに色々な事情が交差して、哀しい運命となってしまったのですね。

幸いなことに、Sさんは今回女性として生まれてきているので、当時彼女であった彼の気持ちを理解することが出来ます。あてなく待たされることや、連絡が来ないことの辛さ・・など。

そして、彼のそんな苦い経験(過去生)から生まれてしまった無意識の想いを知ることで、ようやく彼女は彼の支離滅裂な行動を理解することが出来たのでした。

この2人が今回の人生で立場を入れ替わって生まれてきたことにはきちんとした意味があります。性別が逆になり、お互いの立場が入れ替わることで、その時には判りえなかった相手の立場やともすれば自分が与えてしまったであろう苦悩などを双方とも知ろうとしたのです。

それが2人が選んだ「学び」でした。



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